Lazy Diary @ Hatena Blog

PowerShell / Java / miscellaneous things about software development, Tips & Gochas. CC BY-SA 4.0/Apache License 2.0

アジャイル開発と予算・会計・発注・入札などとの兼ね合い

開発プロセスやビジネスへの価値提供の面でのアジャイルラクティスのメリットはどの国でも同じだと思われる*1。一方、会計・税務・公共入札のルールなどは国ごとに違うので、その点については国をまたいでプラクティスを参照することはできず、考慮すべき点を国ごとに考える必要があると思われる。「アジャイル 会計処理」とかでググったら、同じことを考えている人はけっこういるようなので観点をまとめておく。

会計および税務上の資産の扱い

たとえば以下のような状況を考える。

  • プロダクトオーナーは1月~12月まで月100万円ずつ、合計1200万円の予算を持っている。
  • 1~2月は新機能を開発して、3月には新しいOSに対応するための修正とテストを予定していた。
  • ちょっと調べてみたら新OS対応の作業は1ヶ月もかからなかったので、3月にも新機能開発の作業を入れることにした。

こういう状況では、1200万円使っていいと決まった時点では1200万円をそのまま資産計上開始できず、どの作業をいつ資産 or 費用として計上するのかという問題がある。EY Japanのサイトにある資料*2*3*4では基本的に「ややこしいよね」としか言っておらず、まぁその通りなんだけどじゃぁどうしたらいいのさという気持ちになる。クックパッド有価証券報告書を分析したサイト*5では、クックパッドでは経理が頑張っているように見えるけど、経理の体制が開発と比べて小さい*6場合には同じ方法は取りにくいのでは。その場合は、会計と税務についてプロダクトオーナーが理解した上で、予算見通しの認識をアップデートし続ける必要がある。他にも、研究に使ったら費用になる*7ので「研究と開発の違いは何か」「研究として開発したソフトウェアの扱いはどうなるか」といった点をプロダクトオーナーが理解している必要がある。ただでさえプロダクトオーナーはやることが多くてボトルネックになりやすい*8のに……という感じ。

決裁基準上の予算承認と予算執行の扱い

「1200万円の予算を持っている」というのは「1200万円の予算が承認された」という意味。じゃぁその予算の執行ってプロダクトオーナーに一任されてるんだっけ?という問題。「○○万円以上の予算を執行するには○○に稟議を上げて決済を受けなければならない」という決裁基準はよく見かける*9*10*11。プロダクトオーナーに予算*12を持たせて権限委譲……と言えば聞こえはいいけれど、ガバナンスとの整合性は確保する必要がある。

リリースの区切りと発注の区切り

1つ1つのリリースを別々のプロジェクトとして扱えば予算執行に伴う決裁基準はクリアしやすくなるかもしれないけど、じゃぁ一方で下請法上は発注って細切れにできるんだっけ(準委任契約でも派遣契約でも)という話がある。これは準委任契約についてNTTが論文にまとめている*13

公共入札との兼ね合い

日本の公共調達だと、ベンダーロックインを排除する目的からか「標準価格が確認できる」製品でないとシステムに組み込んではいけない、という条件がつくケースがある*14。この「標準価格が確認できる製品」自体の開発をアジャイルに行います……という状況だと、標準価格どころか製品や機能の存在自体が未確定になるわけで、場合によっては影も形もないソフトウェアを前提として入札ができてしまう。「入札の前提とするにあたり、この機能は最低限必要なんです!」という機能だけは優先度を動かせなくするとか、バジェットをオーバーしてもリソースを突っこめるようにするとかの対処が必要なのではと思うんだけど、そういう議論は見つけられなかった。

*1:これもいい加減な理解にもとづいているので、もしかして商習慣によってメリットが出たり出なかったりするケースがあるんだろうか?

*2:https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/industries/basic/software/2016-11-04-01-01.html

*3:https://www.eyjapan.jp/library/issue/info-sensor/2018-12-03.html

*4:https://2020.agilejapan.jp/pdf/DAY2_CH2_1150.pdf

*5:https://kigyou-no1.com/webservice-accounting-126#i-4

*6:特に、大量の顧客に向けて小さいプロジェクトがバラバラと走っている状況だと、個別のプロジェクトの背景を経理がカバーできずクックパッドのような方法は取りにくいのでは

*7:日本公認会計士協会,"会計制度委員会報告第12号 研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針",2011/3/29,https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/2-11-12-2-20110704.pdf ,2021/08/09閲覧

*8:https://www.ryuzee.com/contents/blog/7143

*9:https://www.kyoto-seika.ac.jp/researchlab/?page_id=19

*10:https://www.city.kodaira.tokyo.jp/reiki/reiki_honbun/g135RG00000402.html

*11:https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/embed/jaaboutorganizationotherrevisiondocumentspastzai-1-4-20-2.pdf

*12:話はずれるが、会計の話と混同しないようにソフトウェア開発の分野では「バジェット」という言い方をするのかな?

*13:秦泉寺久美, 神明夫, 村本達也, "アジャイル開発推進を目的とした発注側企業における準委任契約制度の設計",トランザクションデジタルプラクティス, https://www.ipsj.or.jp/dp/contents/publication/45/0002/TR0201-02.html ,2021/08/09閲覧

*14:https://nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/nyuusatusetumeisyo.pdf